『翔んで埼玉』は2019年に公開された日本映画です。
原作は『パタリロ!』で知られる漫画家・魔夜峰央の同名作品。『花とゆめ』誌上で1982年から1983年にかけて連載されていました。
この漫画、2015年頃からSNS上で注目を集めていましたが、この度ついに実写化されることに。監督は『テルマエ・ロマエ』(2012年)の武内英樹が務めました。
主演として、二階堂ふみとGACKTがキャスティング。二階堂は生徒会長の男役を、GACKTは眉目秀麗な転校生役を演じています。
架空の日本を舞台に、都民から苛烈な迫害を受ける埼玉県民たちの蜂起を描いた物語です。
ご当地の自虐ネタが多分に盛り込まれ、埼玉出身の有名人も奮って出演。そんな究極の「埼玉ディス」映画として話題を呼び、興行収入37億円を超える大ヒットを記録しました。
映画『翔んで埼玉』の原作
原作は『パタリロ!』で知られる魔夜峰央の同名漫画です。少女漫画雑誌『花とゆめ』で1982年から1983年にかけて連載されていましたが、未完に終わり、単行本も長らく絶版の状態が続いていました。
耳目を集めるようになったのは、連載から30年以上が経った2015年のこと。その自虐的なネタの数々がインターネット上で話題となり、これを受けて単行本も復刊されることになります。
その発行部数は、2019年2月の時点で69万部を突破。日本全国で『翔んで埼玉』ブームを巻き起こすことになったのです。
キャスト一覧
壇ノ浦百美/二階堂ふみ
東京のエリート校である白鵬堂学院の生徒会長。父親は東京都知事の壇ノ浦建造で、その後ろ盾によって学校を掌握する高飛車な男です。
転校してきた麻実麗に対しても、当初は敵意をあらわにしていました。しかし彼の何事にも動じない姿を前にして、次第に恋心を抱くようになります。
それまでの態度も一変、生徒からも慕われるようになった彼は、やがて麻実と運命をともにする道を選ぶのでした。
麻実麗/GACKT
白鵬堂学院に転入してきた眉目秀麗の男。アメリカ帰りで才気に満ち溢れ、すぐに学内で人気の的になります。
しかし、その正体は埼玉県民。出自を隠して東京都知事になり、埼玉県に対する圧政の象徴、通行手形を撤廃しようと画策していたのでした。
埼玉県民であることがバレた後は、百美とともに東京を逃れ、レジスタンス組織「埼玉解放戦線」に合流します。
阿久津翔/伊勢谷友介
東京都知事・壇ノ浦建造の執事。建造の妻とは不義密通の関係にあります。
その正体は、埼玉と同様に迫害を受ける千葉県民。建造の陰に隠れて「千葉解放戦線」なる組織を率い、千葉県の地位向上のため尽力していました。
同組織は「埼玉解放戦線」と敵対関係にあり、阿久津は通行手形の撤廃を賭けて、麻美たちの前に立ちはだかります。
壇ノ浦建造/中尾彬
東京都知事で百美の父親。権力を欲しいがままにしており、埼玉や千葉に対する通行手形の発行も、裏で賄賂を得るための手段でした。
百美が麻実とともに逃げたことを知り、すぐに追手を向かわせます。当初は埼玉と千葉の争いを遠巻きに眺めていましたが、百美がとった行動が彼の立場を揺るがすことになります。
映画『翔んで埼玉』の主題歌は、はなわの「埼玉県のうた」
主題歌を担当したのは、お笑い芸人の”はなわ”で、エンディングで「埼玉県のうた」を披露しました。
「どんなに歩いても 海がない」と、曲中でも埼玉の自虐ネタで笑わせてくれます。
はなわと聞くと、どうしても佐賀県のイメージが強いですよね。歌詞の中でも明らかにしていますが、実は埼玉県の春日部市出身とのこと。2歳まで埼玉で過ごした後、佐賀へと引っ越したそうです。
そんな「埼玉県のうた」は本作のための書き下ろし、かと思いきや、もともとは20年ほど前に作り、CD化もしている曲。その自虐性は『翔んで埼玉』の世界観とそっくりで、本人も昔の曲が注目を集めたことに喜んでいるようです。
ちなみに、挿入歌として劇中で繰り返し流れるのは「なぜか埼玉」という1980年の楽曲。歌っているのはさいたまんぞうで、このコミックソングでブレイクし、その後タレントや野球審判員としても活動している人物です。
映画『翔んで埼玉』のあらすじ
謎の転校生・麻実麗
時は現代。埼玉県熊谷市に住む愛美は、婚約者との結納のため、両親とともに東京へと向かっていました。
その道中、車内のカーラジオから聞こえてきたのは、埼玉県を舞台にした都市伝説風のラジオドラマ。
訝しむ愛美たち家族をよそに、埼玉解放の歴史が語られていきます。
かつての日本、埼玉県は東京都から苛烈な迫害を受けていました。埼玉県民は通行手形なしには東京の街を歩くことすらできず、捕まれば強制退去の憂き目に遭っていました。
そんな中、東京の名門校である白鵬堂学院に、アメリカ帰りで眉目秀麗の男・麻実麗が転校してきます。
厳格な出身地差別が行われている同校でも、彼が一流の品格を備えていることは明らかでした。たちまち学校の人気の的となる麻実でしたが、生徒会長の壇ノ浦百美だけは彼を目の敵にします。
麻実を全校生徒の前に呼び出して、恥をかかせようとする百美。しかし、麻実は強かな態度でその攻撃をはねのけてみせます。
百美は彼の優しさに触れ、いつの間にか恋心を抱くようになっていました。
麻実の正体と逃避行
しかし、麻美の正体は何を隠そう埼玉県民でした。彼は出身を偽って東京の学校に潜入し、やがて東京都知事となって埼玉県への通行手形を撤廃する計画だったのです。
正体がバレてしまい、東京を追われる身となってしまった麻実。百美はすべてを投げ打って彼について行くことを決めます。
逃避行を続ける二人は、レジスタンス組織「埼玉解放戦線」に合流します。伝説の埼玉県民「埼玉デューク」とも出会い、戦いに身を投じていく麻実たち。
彼らの前に立ちはだかるのは、埼玉と同じく苛烈な迫害からの解放を目指す「千葉解放戦線」の者たちでした。こうして千葉と埼玉、ともに通行手形の撤廃を目指す両陣営は、江戸川を挟んで全面衝突をすることになります。
その戦いの様子を遠巻きに眺めるのは、東京都知事の壇ノ浦建造。彼の息子である百美の活躍によって、事態は思わぬ展開へと動いていくことになります。
映画『翔んで埼玉』の感想と見所
埼玉・千葉出身の有名人が勢ぞろい
埼玉県だけでなく、千葉県のあるあるネタも頻出する本作。そこに花を添えるのが、それぞれの地元出身の有名人たちです。
埼玉県出身者としては、「ぱるる」こと島崎遥香や特別出演の成田凌。写真のみの出演ですが、THE ALFEEの高見沢俊彦や反町隆史の姿も見えます。
千葉県出身者としては、麻木久美子やふなっしーのほか、写真のみの出演としてX JAPANのYOSHIKIや真木よう子といった肖像が使われていました。
ちなみに、主演の二階堂ふみとGACKTはともに沖縄県出身、監督の武内英樹は千葉県出身です。
撮影の谷川創平(園子温作品で知られています)は埼玉県出身だったようで、撮影の際には武内監督から埼玉ネタについて相談を受けたそうです。
映画『翔んで埼玉』がヒットした理由を考察
突き抜けたコメディ作品として腹が捩れること間違いなしの本作ですが、その記録的ヒットの理由を分析すると、社会的な側面も見えてきます。
まず注目すべきは、「地方創生」が叫ばれている昨今において、埼玉のローカル性が強調された点。
ここでは同じ埼玉をモチーフにした作品として、入江悠による2009年の映画『SR サイタマノラッパー』を思い出すことができます。
低予算ながらも高い評価を受けた『サイタマノラッパー』は、埼玉県深谷市をモデルにした架空の町を舞台に、ラッパーを夢見る青年たちを描いた作品でした。
そこで登場するのは、自虐でも何でもなく、本当に何もない郊外の町。東京に出なければラッパーを目指す以外に道がないような状況で、主人公たちは鬱屈した日々を送るわけです。
『サイタマノラッパー』で描かれた空疎な郊外の街から、『翔んで埼玉』で描かれた空疎であることを美徳とする街へ。
日本映画の中で「ローカル」のイメージが変化したと捉えることができます。
さらに特筆すべき点は、この作品が差別や革命といった「格差」の主題をプロットに取り込んだことにあります。
当然それはコミカルな演出の一要素に過ぎないわけですが、そうだとしても大胆なアイデアです。
たとえ破天荒なコメディ作品だったとしても、日本の大作映画で「格差」というパワーワードが使われたこと自体、何か象徴的な気がしてなりません。
2019年は『ジョーカー』や『パラサイト 半地下の家族』といった社会性のある外国映画が話題となりましたが、ある意味、日本にもその波は押し寄せているのかもしれません。
コメントを残す